3週間の身体拘束入院
私は去る2020(令和2)年7月29日(水)に二階から転落した。胸椎を2か所、腰椎を1か所、肋骨を5本骨折し、一本の肋骨は肺に刺さって血気胸となった。体幹部の骨折ゆえ3週間拘束された状態で入院した。言ってみればコルセットがベッドに取り付けられているようなものだ。そのため、マットレスと密着する背中から大汗をかいて前面に汗が吹き出してくる。一方病室は24時間空調管理されているから、エアコンの冷気で体の前面は冷え切ってしまう。毛布では寒く布団では暑いという、寝るにしても自分で温度調節ができない、とにかく不快な毎晩だった。
身体拘束を受けて入院する患者は、誰も被害妄想を抱きやすくなるらしい。
私も妄想に左右される日々を送った。私は肌着に上着を羽織ったような状態で「着の身着のまま」救急搬送された。時間をつぶすスマホなど一切ない。手に取るべき本すらない。朝夕の6時と正午に三食の食事が出る。いずれも一汁一菜、主采のほか小鉢が2つ付いてくる。朝はパン食で昼と夜とはおかゆが主食となる。そして毎晩9時が消灯だ。
ベッドに拘束されている分、私は眠るばかりで時間の感覚もなくなる。不思議なことに見る夢。妄想というのは日替わりながらもストーリーはつながっている。そしてリアルだった。妄想の内容はいかにも反社会的勢力といわれる団体に首根っこを掴まれて、無理難題を突き付けられる夢。いわれのない借金漬けにされて、幹部の指示に従い何かをする。その結果によって借金の一部が棒引きされる一方、しくじると借金が増える。そんな繰り返しの妄想だった。突き付けられた借金の額が半端な金額でないから、「お前が生きて返さない限り、家族をはじめとして親族一同、多少の縁者に至るまで、その肩代わりをさせられる」と脅かされるばかりのストーリーだった。そして最後には「堅気の世界」を離れて「鬼籍」に入るか、それにしても指の一本や二本は切り落とされ、それを血判として捺印され忠誠を誓う、というストーリーだった。
「人は失うものがなくなると何も怖くなくなる」という話を聞いたことがあるが、今回の入院生活で妄想ながらも、何となく体感した気がする。妄想とはいえ、生涯をかけても完済できる見込みのない何兆円いや何京円という借金漬けにされるのだ。自分としてはやぶれかぶれになるしかない。そうでもしないと親戚一同、縁者にまで迷惑をかけ続けるというストーリーだ。私が生きている限り、それは続く。私は開き直り何をやっても怖くなくなった。
今となっては笑い話だが、実際にベッドに設置されたバンドのつなぎ目を「火事場の馬鹿力」で割いて、2度ほどマットレスから背中を外して起き上がったのも事実だった。その時の看護師の慌てようは面白かった。「えっ!鈴木さん何しているんですか!」その代わりナースステーションの中にある特別監視用の4台のベッドに移動させられたのも事実だし、両腕両足共にベッドの策に拘束されたのも事実だった。
2020年9月1日 15:44